「えっ、まだすずめの戸締り見てないんすか?」
「見てきた方がいい?」
「早く行って感想を聞かせてください、旅行先で話しましょ」
というわけで、すずめの戸締りを超遅刻して見に行ってきました。
その3日後がちょうどそのメンツと旅行だったので、そこで話そうとなったわけです。
ちなみに全員が1回見ただけでそれ以外の情報ソースもないので、実は説明がされているものとか、間違って記憶してる部分もあるかもしれません。でもそういうの抜きで議論した方が楽しいよね。
すずめの戸締り座談会、始まります。
登場人物
がのん:エロゲばかりしてるダメな大人。好きな新海誠作品は「言の葉の庭」
人生二周目:IT企業で期待のエース。好きな新海誠作品は「秒速5センチメートル」
若ハゲ:大手広告代理店のCMプランナー。好きな新海誠作品は「言の葉の庭」
親不孝もの:IT企業勤務なのに入社当時Pythonが読めなかった。好きな新海誠作品は「君の名は。」
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新海誠の伝えたいメッセ―ジ
がのん「俺から言いたいのはまずこれ、環さんの『変な男に引っかかった』が新海誠の裏メッセージだとしたら完璧な作品だった。」
人生二周目「ちょっと何言ってるのかわからない」
がのん「あの話って宗像さんというイケメンが鈴芽を振り回すことになって、ダイジンは鈴芽の一言に振り回されて要石から抜けてしまう、という構図をいかに感動的に見せるかという感じだと思うのよ」
がのん「環さんLOVEの地元のお兄さんとかガン無視されてるでしょ、あのシーンの必要性はこの裏メッセージが前提となってるようにしか思えないんだよね。イケメンに振り回されて、モブは最後まで報われない」
若ハゲ「確かに新海誠の昔のイメージって報われない側を書いてる感じですよね」
がのん「御茶ノ水で出会った芹澤さんとちょっといい感じでまとまってるのとか、あの地元の兄ちゃんが見たらキレとるで」
人生二周目「そういう視点で見ると大衆にウケなさそうなネタを入れこませてるというか、メッセージがあると思わせた時点で名作ですね」
がのん「うん、俺はそういう裏メッセージなら評価するけど、あれが皆が解釈するような震災の恐ろしさみたいなものはズレてると思う。そもそも新海誠ってただ単にいい話書くタイプじゃないでしょ」
親不孝もの「いや最近は結構まっすぐじゃないですか?まあでも、演出とか音楽が良かったから僕は満足でしたよ」
がのん「それは同意する」
人生二周目「ちょっと待って、俺はそこで一つ納得いかないことがあったんだよね」
地域の人たちの「都合の良さ」
若ハゲ「あ、もしかして序盤?」
人生二周目「そうそう、最初の方に出会った人たちに協力してもらうじゃん。そこで『バイク乗って!』とかならなくない?」
がのん「俺はそういう『良い人たち』を書く目的でやってると思ったから気にならなかったけどねえ」
人生二周目「そこら辺ってその人の許容範囲になると思うんで、正直俺も気にしすぎるのは野暮だとは思ってるんすけど、俺が気に入らなかったのは旅館経営してる両親なんですよ」
人生二周目「あれって田舎の民宿じゃないですか、知らない女の子がパッと来て泊めるよ!とはならなくないすか?閉鎖的な環境で、なおかつ旅館もゲストハウスみたいな誰でも泊める感じでもなくて、、ここで環さんと両親が電話してるシーンとか、『なんだいこの子は』みたいなワンカットがないだけで、急にキャラクターがNPC化するんですよ」
がのん「あー確かにあそこだけはなんか納得できないね。あの後に出会ったスナックのママとかは境遇的に理解できる面もありそうだし、納得はできてたけど」
若ハゲ「あそこは仕事終わりに『私たちもああいう頃ありましたよね』みたいなところが入ってたから逆に良く書かれた方じゃないですか?」
親不孝もの「尺足りないから仕方ないっていう割り切り方でもいける疾走感だったので、ぼくは全然気になりませんでした」
がのん「俺は最初のシーンで踏切渡らなかったってシーンで、『ああここからはファンタジーいくのね』って思って頭切り替えたところはあったな。そういう点では普通気になる部分になるわ」
人生二周目「確かにヤマの張り方というか、演出の強弱でそういうイメージを湧かせないつくりにはなってたよね。言っといてなんだけど、俺も後半で忘れちゃうくらい楽しんでたよ」
ダイジンと閉じ師の関係性
がのん「宗像爺と話してたのって結局サダイジンだったっけ?」
若ハゲ「シルエットでかかったしサダイジンですね」
人生二周目「ダイジンもそうなんですけど、あの会話って要石が元人間だったことを描いてる気がするんすよね。鈴芽に爺があそこまで感情的にキレるってのは、爺自身が一度封印したことがあったからじゃないですか?」
がのん「あーーなるほどね!確かにそう考えるとあの反応もわかるわ」
若ハゲ「そうなるとダイジンの『次はお前が要石になるんだよ』って宗像さんに言った言葉にも重みが出てくるな」
人生二周目「爺が敬語使ってて、『戻ってこられましたか』って言ってるところをみると、赤の他人というよりは閉じ師関係、なんなら結構尊敬してた人とかもありそうです。孫が妥協して要石になったことを肯定する要素って、正直そういう過去がないと納得できないですね」
人生二周目「ダイジンが無駄に閉じ師を嫌ってるのは、サダイジンと違って納得しないまま要石になったんじゃないすか」
若ハゲ「鈴芽好き!ってだけでダイジンが宗像さんにキレる理由が若干説明つかなかったけど、その解釈なら納得できそう」
がのん「スナックでダイジンが『人に見えた』ってのは元人間ってことの補強になりそうね」
親不孝もの「みんなよく見てますね」
サダイジンと環さん
がのん「俺あとみんなに聞きたいんだけど、サダイジンが環さんに憑依してたやつっていったいなんだったん?」
親不孝もの「あれよくわかんなかったっす」
がのん「さっきから何もわかってなくない?」
親不孝もの「なんかヒントありました?」
がのん「俺も推測でしかないんだけど、環さんと鈴芽の関係ってサダイジンとダイジンの関係とイコールだと思うんだよね。急に地元から飛び出したやつを連れ戻しに来たって点で」
若ハゲ「それはそれで環さんが鈴芽を悪く言う必要ってあったんですかね」
がのん「そこって裏メッセージの話に戻っちゃうんだけど、そもそもこういう振り回されてる状況自体が”良くない”って伝えるためのシーンな気がするんだよね。本人は突っ走ってるけど、当事者以外から見るとやめなさいってなる」
人生二周目「うーん、解釈としてはギリギリな気もしますが、まあなくもなさそうですね。ダイジンが要石に戻ります!って決めたら素直にサダイジンも要石になったわけだし、その点の自然さが保護者だからっていうのはわかります」
震災を題材にしたことについて
若ハゲ「ぼくはプランナーっていう仕事だからテーマとかに目が行きがちなんですが、震災をモチーフにした作品って結構多いんですよ」
親不孝もの「えっ!そうなんですか。ぼくはすごいテーマを持ってきたなってビックリしましたけど」
若ハゲ「もちろんそのまま使うってことはないんだけど、例えばコロナだって人はたくさん亡くなったわけで、テーマとしては賛否両論になってもおかしくないじゃん?コロナ禍で推し活をやめてしまったお母さん、みたいなCMとかがあったりするんだよ」
親不孝もの「あー、それを前提にして描く。みたいなものはたくさんあるってことですか」
若ハゲ「東日本大震災だと津波があったけど、ネットフリックスの作品で『雨を告げる漂流団地』っていう映画があって。(まああれ自体はそんなに面白いとは言われてないんだけど、)あの映画だと団地内に残った記憶と生活するキャラクターが描かれていて、まさに今回の題材にすごく近いんだよね」
がのん「そんな映画あったんだ、最近の作品は全然わからんな」
若ハゲ「そういう点でぼくが見たときは『え、今更その題材?』って思ってしまって、なんか微妙な気持ちになりました。今の時代ってそういうテーマを前提に描いている作品が多いのに、直喩で使ってくるんだって」
人生二周目「すごくクリエイターっぽい目線だなあ」
がのん「直喩的な点は俺もあんま好きじゃないんだよね。そもそもアニメーションにしている理由ってドラマとかと違って別の世界ですよってことを言ってると思ってるんよ。地名とかが出てきたとしても、それはネオ日本であって今生きているこの日本ではない的な」
がのん「シン・ゴジラが流行ったのって、逆にそういうゴジラと現代日本を融合させたからだと思うのよね。俺、『えっ、蒲田に?』とかのセリフめっちゃ好きだし。ゴジラっていう超非現実的なもの以外すべてリアルだから、面白さがあったと思う。その点でいうと、すずめの戸締りはアニメーションでファンタジーを描いているのに、急にリアルじゃんって冷めたところはあった」
親不孝もの「ぼくは逆にその題材を直接使うっていう勇気を評価したいですけどね、さっきがのんさんが言ったことみたいに、ファンタジーで書いているのに急にリアルさを出してきたことがナイフで刺されたみたいな衝撃でした」
人生二周目「たしかに物語として、悪く言うと他人事みたいな感じで見てた視聴者にこれが現実なんだって見せたとこは挑戦的だったかもしれない」
総評
人生二周目「いろいろ話しましたけど、こう振り返るとめっちゃ名作でしたね~」
親不孝もの「あんなに叩いてたじゃないですか(笑)」
人生二周目「叩いてたっていうよりは、俺の中ではそれくらい真剣に見てたってことよ」
若ハゲ「まさか2時間30分も話すことになるとは思いませんでした」
がのん「大遅刻かましたけど見といてよかったわ。こんな色々話せるとは思ってなかった」
親不孝もの「演出とか音楽とかはもう文句のつけようがなかったですよね」
がのん「俺がすげえいいなと思ったのが、スナックで客がカラオケの歌詞間違えたところと、2階にいる子どもと1階のスナックの間に転落防止柵がついてるところなんだよね」
親不孝もの「またキモいところに注目してますね」
がのん「ああいう一つ一つへの狂気的な細かさはマジですごかった。もちろん常世の表現とかも良かったけどね」
若ハゲ「新海誠の神話なり昔話なりをモチーフにしたセカイ系×ボーイミーツガールへの執念を感じました」
がのん「エロゲーマーとしてはあの素地ってefからきてると思うんだよね。もちろん映画監督だったからストーリーに入ってたわけじゃないけど。絵柄とのマッチはすごくよかった」
親不孝もの「見た当初言ってた『前半ジブリ、後半まどマギ』っていうLINEでこの人適当に観てきたなって思ったけど意外としっかり見てて笑いました」
がのん「キモオタならではの深掘りですよ」