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WHITE ALBUM2 考察 _無印から続く真のテーマ

※今回記述する内容には多大なネタバレと私の大きすぎる解釈が含まれます。本作をプレイ後、ご自身の判断でお読みください。
 

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目次

はじめに

WHITE ALBUM2本編考察
 ・CCのヒロインから見るIC〜CCの展開分析

WHITE ALBUMシリーズ全体考察
 ・無印と2のメインヒロイン比較
 ・ICにおける巧妙なシナリオ構成

 ・CCにおける雪菜とかずさの立ち位置
 ・"WHITE ALBUM"とは何か
 ・緒方英二と冬馬曜子、緒方理奈と冬馬かずさ
 ・メインキャラクターの名前
 ・Codaにおける季節
 ・曲名、WHITE ALBUMから始まる3人の関係性
 ・曲から考察するWHITE ALBUM2
 ・ミニアフターストーリーが示すこと

おわりに

 

はじめに

WHITE ALBUM 2続編である。
なぜWHITE ALBUM 2は無印からの続編として作成したのだろうか。
テーマが"浮気"であり、舞台や使用曲が引き継がれているからという部分もあるが、シナリオの根幹が無印を発展させた完成形だからにほかならない。
そもそもWHITE ALBUMという題名は何なのだろうか。2は複雑で長編であり、単独ではテーマを掴むことが困難である。
その点は、シンプルすぎるほどのストーリー構成である無印と比較することで理解が易しくなる。無印の人気が2と相対して低いのは、物語としての完成度が高くなく、加えて深掘り不足によりテーマの把握が難しいからだ。
シンプルである無印と、複雑な2のニ作品をもって、私は適切な考察ができるものと解釈している。
また、"浮気"というテーマは本シリーズにおける「つかみ」であり、真のテーマは題名である"WHITE ALBUM"である。この点は2本編の考察、無印との比較を踏まえた上で記述する。
 
2の考察へ向かう前に、丸戸史明氏への賛辞を送らせて頂く。
無印と2のライターは別々である。シナリオ展開を無印と類似させつつ、無印で問題となった「物語としての完成度」を高めるため、各キャラの掘り下げを主軸にICから物語を展開させており、プレイヤーである私たちの理解を進めている。そして、IC〜CCにおいての呼応を行い、2から始めた人間にも充分な内容の理解、読後感を残すストーリーとなっている。最後に、Codaでは無印で語られなかったテーマへの回答を提示している
今回、丸戸史明氏が2を執筆するにあたり無印と2をどのような関わりを持たせたか、そして2がどれほど作り込まれているかを本稿をもって紹介できれば幸いである。
 

WHITE ALBUM2本編考察

IC〜CCへの展開分析
2ではそれぞれのチャプターでシナリオ上の役割が異なる。ICでは問題提起が、CCでは各ヒロインにおいてICへのアンサーとともにCodaへのヒントが、Codaではテーマへのアンサーが示されている。Codaで示されるアンサーについては、無印との比較を終えたのちに記述することとする。まずはICから考察する。
 
ICは2人(雪菜とかずさ)のどちらを取るか揺れる春希が、どちらも選びきれなかったことによるバッドエンドを迎えるというシナリオ展開である。
これが掴みのテーマである"浮気"であるが、浮気はICの持つ役割におけるテーマであり、Codaで示される真のテーマとは異なる
 
ICエンドとCCノーマルエンド
ICは各人への関係性に決着をつけないまま、時間が過ぎていくことによって終結した(「時間」という要素は、後述する本シリーズの要素として重要であるため、心に留めておいて頂きたい)。
CCノーマルエンドでは上記の通り、時間が過ぎていくことによって答えを保留した状態であり、明確なアンサーが成されず終了する。

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ではCCでの各ヒロイン√はどのような立ち位置であるだろうか。
 
IC雪菜=CC千晶
CCにおいてはかずさが登場せず、ICでの各キャラはCCの各ヒロインへと投射されている。
千晶Goodエンドでは、千晶が演劇とともに、春希とも別れない決断を下した。
千晶は春希の高校時代を知っており、想い人がいることを理解している。その中、理由は異なるものの春希の関係性に踏み込み、春希をある種ゲットした√といえる(ICにおける、かずさが好きだと知っているにもかかわらず、春希をゲットした雪菜)。Goodエンドでは、その後に自分の本来の目的であった演劇に対して揺らぎが生じ始める。これはIC雪菜で示された「3人で一緒にいたい」という想いと重ねられる。しかしながら、千晶は春希と演劇という2つを両立することを選択した。

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IC雪菜はかずさと春希の関係性を察しつつも、欲張れなかったことがICのエンドを迎えた展開であった。千晶√はその展開とは一線を画すものとなる。この点において、ICでの雪菜のアンサーを示している。
 
IC かずさ=CC 麻理
麻理は仕事の夢と春希の選択を迫られる。かずさでいう「ピアノと春希」と解釈でき、実際に海外へ行くという決断をしている。
ICと異なる点は春希と友人である佐和子にある。
海外に行くことを決めた麻理に対し、春希は海外へ行くことを決意し、空港で再会した。この点は明確にICかずさと異なる点であるが、ここには佐和子の助力が大きい。
麻理は佐和子という第三者の立場がいることによって、相談が可能だった。また、春希は佐和子の協力により麻理と再会ができた。

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ICかずさには友人がいないということが大きく影響しており、なんでも一人で決めてしまう・察してくれという姿勢という部分で春希とのすれ違いを発生させたことがICエンドへと導いていた要因であった。
 
IC 春希=CC小春
CCでは「小春希」というワードがあるように、たびたび小春と春樹を結びつける示唆がある。
小春は美穂子という親友を裏切り、春希と結ばれたことで高校でいじめに遭った。最終的に小春が出した結論は、春希(ICかずさ)をとり、加えて美穂子(IC雪菜)と仲直りを模索すること。そして、ICでの過去を小春が清算している(雪菜との対話)
雪菜は春希と小春との対話で見せる顔が異なっており、印象的なCGであった。雪菜は春希には笑顔で返している。

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ICで春希が雪菜を裏切り、雪菜はそれを許す結果となったように、CCでも春希は雪菜に許されている。春希はあくまで報告にすぎず、過去の清算をしたわけではない。
「大団円へ」というサブタイトルは、「小春」における解釈である。きちんと関係性に向き合った小春は、Goodエンドを迎えた。これは最後に表示される色彩調のを迎えたCGによって示唆されており、(色彩調という表現が抽象的ではあるため正しい解釈かは疑問が残るものの、)Codaの雪菜Good(Grand)エンドでの結婚式のCGと重なる。小春√はICにおける春希という特殊な立ち位置であることがCGに表れている。
しかしながら、小春√のエンドCGには小春しか映っていない。
詳細は後述するが、Codaの雪菜Goodは周囲を取り巻く問題を3人全員で解決しているため三人称視点で描かれているという部分が大きな相違点である。
 

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CC雪菜
CCにおける雪菜はCodaへの導入であり、ここでは各√ヒロインを踏まえて、春希が一旦の答えを出したこと(ギターを弾くこと)によりエンドを迎える。ICとのCG比較が印象的であるが、雪の描写(冬)で終わっている。

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WHITE ALBUM2におけるエンドは、小春√で前述した通り「春」を迎える。このエンディングがGrand EDではないことを教えてくれる。
 

シリーズ全体考察

無印と2のメインヒロイン比較
無印をプレイしていない方々へ簡単な紹介をすると、無印では由綺という彼女がアイドルとなり、一般人である彼女がだんだんと有名人となっていく中で、揺れる冬弥(主人公)を描写した作品となっている。由綺の所属する事務所で既に人気アイドルである理奈が登場し、物語は冬弥、由綺、理奈の三角関係へと進んでいく。
由綺
理奈
無印では、由綺が正ヒロインとしてエンドを迎えることとなっている。
 
 
 
では、2のメインヒロインである雪菜とかずさは由綺と理奈それぞれどちらと対応するか、その点について掘り下げて行きたい。
 
ICにおける巧妙なシナリオ構成
既に2をプレイした方はご存知の通り、正史におけるヒロインは雪菜である。
ICのみに焦点を絞ると、正ヒロインはかずさであった(理由は後述する)。しかしながら、CC以降から正ヒロインが雪菜であったとプレイヤーは気付かされることとなる。
無印で提起された問題は、「社会と個人的な感情どちらをとるか」というものであった。
由綺についたマネージャーである篠塚弥生(サブヒロイン)は、「アイドルとなった由綺にとって冬弥の存在は邪魔だ。私が代わりとなっても良いから由綺と別れろ」と迫ってくる。
 
 
由綺はアイドルとしての社会的側面を持つつつも、冬弥からすれば恋人という個人感情を持つキャラクターである。
冬弥・由綺はお互いアイドルとして生きる由綺(社会)をとるか、恋人として生きる由綺(個人)をとるかに悩むこととなる。
ICにとって、春希とかずさは無印と同様の選択を迫られる。これは2通りの意味で解釈でき、かずさのピアニストとしての才能(社会)とかずさ・春希(個人感情)。そして既に春希と付き合っている雪菜(社会)とかずさ・春希(個人感情)である。依緒や武也の存在は、「社会性を反し、かずさをとる」という春希の行動をより一層引き立たせている。
このようなシナリオ構成から、ICを起点とした無印との比較においては、由綺=かずさ 理奈=雪菜という解釈ができる。
グラフィックや演出においても同様で、まず見た目から由綺とかずさ、理奈と雪菜は類似している
 
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また学園での立ち位置では、かずさは人々から見向きもされなかった一方、雪菜は既に人気者だ。
文化祭を機にかずさが人気になり始める、という構図も、アイドルとして売れ始めた由綺と類似する。
 
当時話題となった、「ここが、あの女のハウスね…」というワード。
2003年12月16日・flash「ホワイトアルバム」・67点
これはニコニコ動画で作成されたMADのネタであり、無印の理奈が由綺の家へ向かう際に発した言葉である。
2では公式がこのMADを採用し、雪菜はかずさのいる第二音楽室に入る合言葉としてこの発言をした「公式採用した小ネタ」と見るのが普通だが、プレイし終えてみると実は雪菜=理奈と見せようとする公式側の策略だったのではないかと邪推してしまいそうになる。
 
このように様々な要素から、かずさ=由綺、雪菜=理奈と考えられる。しかしながら、ICはあくまでキャラクターの深掘りと問題提起であり、選択肢がほぼなかったようにICは「過去回想」としての立ち位置にある。つまりICを起点とした無印との比較は誤りであり、本来現在進行形としてプレイングしているCCこそが、無印との比較に適しているのである。
 
CCにおける雪菜とかずさの立ち位置
CCでかずさは海外で活躍するピアニストとなったことが判明する。日本でソロの公演ができるクラス、というのは人気アイドルに相当する。
一方、雪菜はミス峰城と騒がれる一般人の領域であると強調される。ICで朋が憧れていた雪菜は、朋に落胆されるような存在となってしまった。朋は「精一杯努力をして芸能界に入ろうとする」という一般人としての解釈を際立たせる存在である。そんな朋が憧れたICでの雪菜は理奈に相当したかもしれないが、CCの後半で「友達」となった雪菜と朋の描写は、まさに雪菜が由綺であることを示していた。
 
また、CCでは春希が出版社でのバイトを通して、かずさ自身の活躍を知る。
無印では冬弥が「テレビ局のアルバイトや由綺との関わりの中で理奈と出会う」という描写がある。
無印では、遠くにいた存在(理奈)と。2では、遠くに行ってしまった存在(かずさ)と接触する。
ICを起点として無印を考えると、海外へ(手の届かないところへ)行ってしまったかずさ=由綺であり、前述の通り雪菜=理奈といっても差し支えないが、CCを起点にすることで無印におけるかずさ=理奈であるという示唆が少しずつ表されていく。
 
 

"WHITE ALBUM"とは何か

今までの点をもって、Codaで示された真のテーマ(WHITE ALBUM)とは何か、そして示されたアンサーは何かを考察したい。
 

WHITE ALBUMとは「まっさらな関係性」

無印では由綺と付き合っている状況において、環境が変わってもその関係を維持できるかがテーマであった。冬弥は、周囲の人間に浮気することはあれど、由綺のエンディングでは周囲の人間(ヒロインたち)に、冬弥と由綺が本当に愛し合っていることに気付かされる。社会と個人感情、どちらを取るではなく、お互いに歩み寄り、対話することでどちらも捨てない」という選択をもって、WHITE ALBUMはエンディングを迎える。
2では、特に「社会との関わりを捨ててはいけない」ということと、「一からやり直そう」というフレーズが繰り返し使われる。
無印は、このテーマへ辿り着くことが難解である。冬弥と由綺がなぜこのような選択ができたか、という深掘りが不足しているからだ。
無印では、由綺と理奈が分かり合う、という描写が多く語られない。なぜ三角関係が解消されたのか、という点が疑問に残ったプレイヤーも少なくはないように感じる。
 
この無印で示されなかった点を明瞭に描写した2のCodaへと話を進めたい。
 
緒方英二と冬馬曜子、緒方理奈と冬馬かずさ
前置きが長くなり恐縮だが、冬馬曜子の役割を説明することでCodaをより深く理解できる。
無印で登場する緒方英二とは、人気アイドル緒方理奈の兄であり、理奈のプロデューサーとして登場する。WHITE ALBUM(曲名)やSound of Destinyは、全て英二が作成したものである。
 
英二
緒方 英二(おがた えいじ) | WHITE ALBUM -綴られる冬の想い出-
 
理奈とかずさは、兄妹と親子という違いこそあれど、天才を親類に持ち、自らも天賦の才を持つという環境は近い。
無印で緒方理奈は自身の力を発揮し、人気アイドルとなった。一方冬馬かずさはICで親に捨てられたと塞ぎ込んでしまう。理奈=かずさであることを前述したものの、ICかずさが理奈と結び付けられる部分は少ない。
理奈はCC〜Codaのかずさである。理奈は英二に反目しつつも信頼を寄せており、かずさも曜子へ同様の姿勢で接する。
無印では、英二が由綺をプロデュースする中で、理奈を次第に放任させていく。理奈はこの英二の行動を、「由綺が英二を持って行った」と解釈する。
これは、由綺=才能とみるのであれば、「曜子が音楽の才能のないかずさを置いて行った」こと
そして、由綺=1人の女性と見るのであれば、「雪菜が春希を持って行った」ことと対応する。
どちらも解釈が可能だが、こちらは下記のシナリオ展開から後者の解釈が適切であると私は考えている。
 
かずさは曜子への想いを春希に投射
理奈は英二への想いを冬弥に投射
 
2初プレイ時の感想となるが、私はCodaにおいて、なぜ『春希が好き』という純粋なかずさの想いが、雪菜Goodにおいて昇華されたのか疑問に感じていた。様々な作品において、当初示された問題の論点を後半ですり替えて、「それっぽいエンドにする」手法は用いられやすい。
その疑問点は、上記の「家族への想いを主人公に投射する」というヒロインの前提に立てば解消することができる。
冬馬かずさが春希を好いていたことは勿論異性として、でもあるが、同時に孤立した自分に手を差し伸べてくれる存在であるという部分が大きい。Codaでは冬馬曜子が病気で長くないかもしれない=かずさが1人になるという点が大きく取り上げられる。つまり、春希・かずさ・雪菜の関係性は、純粋な異性としての関係ではなく、歪んでしまったかずさの価値観が作り出したものでもあるのだ。
 
上記の前提において、2では冬馬と雪菜の三角関係を産んだ源泉を、3人がその環境ごと解決するという方法によって解消した。
つまり、無印で語られなかった部分から進んで"2"となることを私たちに示している。
 

メインキャラクターの名前

"冬"馬かずさ

"北""春"
小木曽"雪"
雪菜Goodのエンディングでは「時の魔法」とともに冬から春への移り変わりを示している。
WHITE ALBUM2において季節は大きな意味を持ち、降り積もる雪は、すべての罪を覆い隠し。雪解けと共に、すべての罰を下す」というフレーズが用いられる。冬から春という季節の移り変わりは、問題の発生から結果までの一連の過程を表すものである。
名前という点において、季節が関わっているのは冬馬かずさの場合、"冬"馬であり家系丸ごとである。苗字に季節の名前を入れた理由は、冬に発生する問題がかずさ本人ではなく「冬馬にある」ことを示しているからである。
つまり、雪菜においては雪菜自身、かずさは冬馬家、という対比が見える。
では春希の抱える問題とは何か、それは"北"原=母親との確執である。
そもそも、かずさが孤独感を持っていたことに対して、手を差し伸べた理由は何か。これは異性としてかずさを見ていたとともに、母親との関係をうまく構築できなかった自分と共感する部分があったからである。
北から冬はやってくる、"北"原家という確執がなければ、"冬"馬に共感しない。Codaでは、春希は繰り返し「かずさには俺しか残っていない」「雪菜には頼れる存在がいる」という主旨の発言をする。これは、春希が手を差し伸べるべき相手を「支える人がいるか」という判断基準で揺れ動いていたことが明らかとなる部分である。
 
依緒から春希に向けて
 
 「雪菜は色々ないからいいんだ?一人ぼっちじゃないから捨ててもいいんだ?」
 「言ってるよ春希…雪菜は自分がいなくても一人じゃないから、
 可哀想じゃないから捨ててもいいって、言ってるよ…」
 
ICで春希が空港に向かう中で
 
 唯一の救いは…
 雪菜が今、独りぼっちじゃないってこと。
 俺がいなくても、家族の皆が、
 彼女の寂しさを和らげてくれるだろうってこと。
 
繰り返しとなるが、ICでは曜子がいない(置いていかれた)ことが、そしてCodaは曜子いなくなってしまう(死去する)ことが春希にとって揺れ動くきっかけとなっている。
2の全編を通して、はっきりと決断しなかった春希の罪は、雪菜による救いが差し伸べられる。
ICではエンディングにおいて春希が雪菜を捨てたにも関わらず、雪菜はそれを許した。

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CodaではかずさNormalで精神崩壊を起こし、アフターストーリーである「不倶戴天の君へ」に続く。ここでは雪菜が春希を世話する描写が窺える。
どの√でも冬で発生した問題が時間の経過を持って発覚している流れである。
 
Codaにおける季節
Codaで冬に起こるかずさとの再会によって、物語は再び動き出しているが、かずさNormalでの春希は社会との関わり」を捨てる決断をし、かずさと逃避行へと走った。かずさはそんな春希を見て、自分1人ウィーンへ帰る決断をする。春希はかずさと冬を越えられなかった。

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かずさは社会性を持つことを諦めた春希を認めなかった。これは、ICで惹かれた春希が、社会性を持った春希であったからである。「社会と関わる」というフレーズのみでは、かずさGoodも社会性を捨てたと一見感じられるが、前述したCCでの小春√を思い出すと、小春は周囲への対話をもって春を迎えた小春√が小春にとってのGrand EDであったように、かずさは「自分を選ぶという覚悟」を「春希が今まで積み重ねた日本での関係性を全て捨てることを自ら選び、対話すること」によって見出せると感じていた。冬馬を丸ごと春希が背負うことで、初めてかずさGoodへと辿り着ける構成である。
かずさGoodで春希は雪菜の家族へ婚約の破談を申し入れるが、孝宏には殴られ、雪菜の父親には「他人」と言われてしまった。
 
しかしながら、「社会と関わる」というのは答えを出すことにある。例え殴られたとしても、「社会との関わりを捨てず、過去を清算した」春希だからこそ、かずさは春希と海外へ進むことを選択したのである
 

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ては、雪菜Good(Grand ED)はどのようなエンディングといえるのか。
前述した無印では、テーマである「社会と個人感情、どちらを取るではなく、お互いに歩み寄り、対話することでどちらも捨てない」という結末を迎えている。それは、2で表す場合、「雪菜に許されるという結末を迎えない」ことである。
雪菜Goodでは、時の魔法を歌う=春のエンディングであり、春希が映った第三者目線での色彩調の春のCGで終わる。雪菜が許したのではなく、春希・かずさ・雪菜の三者が冬(冬馬家)の問題を、解決したことで初めて春が訪れたことを伝えてくれる。その証明として、春希は母親との確執を解消できることへと繋がった。
 

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曲名、WHITE ALBUMから始まる3人の関係性

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WHITE ALBUMとは「関係性がまっさらな状態」を示唆するが、これは2 IC冒頭におけるWHITE ALBUMのセッションにおいて二つの解釈が可能である。
1.  3人の関係性の始まり
2.  (かずさ春希両名にとって) 雪菜との関係性の始まり
1は理解しやすい。プレイヤー目線で見ると、「3人がセッションした瞬間に関係性が始まった」と解釈できる。
しかしこの解釈だと、IC終了後に示されるかずさと春希の夏のストーリーとの整合性が取れない。既にセッション自体は冬馬と春希で行っており、冬馬は既にギターが春希であると認識していたとみて良いだろう。その前提においては、最初に関係性を構築したのはかずさと春希の2人であり、後から入ってきた雪菜は2人の関係性に割って入ったということになる。
無印でいえば、恋人同士であった由綺と冬弥に割って入った理奈と同じ捉え方」ということである。
これは、ICでバッドエンドを迎えた雪菜の負い目「私が割って入ったんだ」という考え方と重なる。
雪菜≠理奈である上、2においてもICのバッドエンドは「割って入った」という考え方が正しくないことを示している。つまり、正しくは2. 雪菜との関係性の始まりである。WHITE ALBUMのセッションは、かずさと雪菜、春希と雪菜の関係性の構築が始まりを示したものである。
 
本来こういったシナリオゲームにおいては、主人公とヒロインの関係性の深掘りがメインとなるが、WHITE ALBUM2においてはヒロイン同士の関係性に言及している。こうした部分からも、WHITE ALBUM2がどれだけ傑作であるかを教えてくれる。
 
ここで、かずさと雪菜の関係性とは何かを考えたい。
かずさは物語において心を開く相手が少なかったが、かずさから雪菜に対する「不倶戴天の敵になるか、生涯の大親友になるか」という発言にもあるように、良くも悪くも心を開く相手となった。ICでは、雪菜による猛アプローチから関係性が構築されていった点も春希からかずさへの接し方と似通う。
かずさと雪菜の関係性は、冬馬家の話に雪菜がCodaまで立ちいらないことで、長い伏線となっている。雪菜がかずさとの関係性を正しいものとするためには、冬馬かずさにおける"冬"馬を知ることが必要であり、雪菜Goodで初めて雪菜は冬馬家を知り、生涯の大親友となることができたのである。
 

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曲から考察するWHITE ALBUM2

「Closing」
かずさGoodではClosingがEDとして流れるが、Closing Chapterの次にCodaが存在したシナリオ構成から考える「Closing」はClose(終わる)ことを示していない。つまりこれはかずさGoodがGrand EDではないことを示しており、正史は雪菜Goodであることは明らかである。
 
ここで音楽用語で用いられるCloseの意味を引用する。
 
 close harmony  密集和声
 密集位置の和音による和声。
 close position  密集位置
 ある和音の構成音を密集状態で配置したもの。
 
楽曲用語としてのCloseには構成環境の密集という定義を含めた考え方がある。CodaのOPで意味が出てくるように、Closingにも音楽用語としての意味を持つと考えることも可能だと考える。
 

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勿論、ここで使われるCloseは形容詞であるため、動詞と同様に捉えることが誤りであることは理解しているが、かずさも含め、ヒロイン全員が出てくることはClosing Chapterと呼んでも差し支えないのではないだろうか。
 
「POWDER SNOW」
かずさGoodでは、雪菜が歌ったPOWDER SNOWが印象的である。当時は雪菜死亡説なんて噂も流布したが、公式の否定により騒ぎは収まっていた。
前述した「Closing」が終わりを示さないということを念頭に置き、雪菜から送られてきた「POWDER SNOW」を考察する。
 

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歌詞の中では、「I still love you」という部分が存在する。
この"you"が春希を示すのか、それとも春希とかずさの2人を示すか解釈が分かれる。
WHITE ALBUMのセッションは、前述した通り雪菜が春希とかずさそれぞれと関係性を構築したという解釈が正しいということが示された。
その解釈において、雪菜との関係性はかずさと春希の両名にあり、POWDER SNOWを春希にだけ聞いてほしいと明言しているわけでもない。ここから、2人に向けた"you"と捉えられる。
 
かずさの状況("冬"馬の部分)を雪菜が知ることのないまま、かずさは春希とともにウィーン行ってしまった。こうしたかずさGoodでは、雪菜自身も春希とかずさの2人を救えていない」という考え方ができる。かずさNormalのアフターストーリーである「不倶戴天の君へ」では、雪菜はかずさにとって「生涯の大親友」としてではなく、「不倶戴天の敵」となってしまったことが示される。

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POWDER SNOWは別れの曲であり、「I still love you」という歌詞とともに、「粉雪のようなあなたは 汚れなく綺麗で 私もなりたいと 雪に願う」という歌詞が流れる。
「雪は罪を隠す」というフレーズは本編で語られるが、考察を進めていく中で「雪(雪菜)は救う存在となる」ことが示された。これを踏まえて、雪菜はPOWDER SNOWの歌詞の中で雪の存在になれなかったことも同時に示している。
「雪菜がどのような気持ちで歌ったか」をフォーカスするのは解釈がかなり多岐にわたるが、シナリオ構成としての曲の描写のされ方では、上記のような解釈で整合性がとれるのではないだろうか。
 
「時の魔法」
雪菜Goodのエンディングで流れる時の魔法は、WHITE ALBUMというテーマを教えてくれる。
それは、「ゼロからonce again」という歌詞である。「WHITE ALBUM=まっさらな関係性」とは、ゼロからスタートするということであり、まさに歌詞の通りとなった。
WHITE ALBUMを3人で作り直そうともとれる。
ICで初めてWHITE ALBUMをセッションした際の解釈に記述した通り、雪菜とかずさ、雪菜と春希のお互いのそれぞれの関係性をスタートしたものであった。時の魔法は、3人でのリスタートを願う歌詞として解釈が可能となる曲であると考察を踏まえて再認識することができる。
 

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小ネタ話
CodaのOPで採用された「雪菜がかずさの頬を打つCG」は、無印をプレイした人間にはピンときたように、由綺=雪菜、理奈=かずさであることが明白となった。
OPに使われたこともあり、ここでどちらがシナリオ上、正ヒロインに選ばれるかに察した人もいるかもしれない。
1986年の女子大生アイドル[ホワイトアルバム] | 木津貴泰の趣味日記

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ミニアフターストーリー

幸せへと戻る道
かずさGoodのアフターストーリー。過去を清算しても、帰るところなんてないと自戒する春希とかずさであったが、外と触れ合って生きていく」という重要性とともに、曜子たっての希望として日本へ帰国する。

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そんな中、かずさは曜子が雪菜の家に一連の騒動を謝りに行ったことを知る。これは、かずさが向き合わなかった分の尻拭い。文章の中には、雪菜も家族を説得する描写がなされている。ここでも雪菜の「許し」が出ている。
 
そして終盤。「もう一度ここから始めよう」と高校の第二音楽室で結婚式を挙げる
かずさGoodにおける、Grand EDを迎えるということが示される。
 
幸せへと進む道
雪菜と結婚式を挙げ、新居へと引っ越そうとする雪菜と春希、そして結婚を考える武也と依緒のストーリーが中盤に描写される。
仕事で忙しくなってしまいクリスマスを予定通り祝えなかった春希と雪菜であったが、お互いをよく理解し合った2人には、もう問題とはならなかった。春希と雪菜の会話、そして春希と武也の会話は仕事の話、そして育児休暇の話と、とにかく世間らしさのある表現が多い。嫌になる程リアルな社会人の会話である。まさに社会と関わって生きていく」を主題としている。
 

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両者の比較にも軽く触れる。
まずは生活感の違い。今までもよく登場していたので当たり前かもしれないが、高級ワインと共に外食する冬馬家に対し、雪菜たちは缶ビールと鍋を夕食としている。
そして冬馬家の作るおせちに口を出せない春希と、鍋奉行と化した春希。
会った時から顔が好きだったと話した春希を振り返るかずさと、アルバイトをしてたことは知っていたがそれほど見てなかったことを聞き落胆する雪菜。
 
幸せへと戻る道・幸せへと進む道は端的にこの作品を表しているように思う
WHITE ALBUMにおける幸せとは、正しさである。正しさは、「社会と個人感情、どちらを取るではなく、お互いに歩み寄り、対話することでどちらも捨てない」ことである。
と、私は解釈している。
正しく進むために、結婚式を行うかずさ。そして正しく進んだ先に、子どもをもうけた雪菜。
どちらもそれぞれのEDに対する正当なアフターストーリーであり、今まで散りばめられた要素を回収してくれる物語だった。
 

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WHITE ALBUM2では「時間」という言葉の重要性を教えてくれる。それは良くも悪くも、影響を与えてくれるものである。
 
 

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 とうとう、降ってきた。
 一番大切なものを失った日にも、
 やっぱり、俺の前にその白い姿を見せてくれた。
 
 雪は、覆い隠してくれる。
 辛いこと、哀しいこと。
 そして、見たくもない真実を。
 ただ白く、綺麗なだけの世界を目の前に広げ、
 俺たちを、そこに置き去りにしてくれる。
 
 けれど、所詮雪は雪であり。
 一度解けたら、そうやって隠していた事実を、
 忘れていた想いを、もう一度白日の下にさらす。
 黒く汚れ、ぐちゃぐちゃに踏み潰された泥のように。
 
「Introductory Chapter」より
 
ICの時の春希の罪は、時間と共にあらわになっていき、大きな傷を作った。その傷は、CCのヒロインによって癒され、雪菜と向き合うことができた。かずさNormalでの傷は、時間が経つことで徐々に回復へと向かっていった。
 
 

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 冬が来る、そして春も来る。
 もう、来ない季節はない。
 そんなのは当たり前のこと、ただの自然現象。
 自分の人生とは関係のない、巡る季節の話。
 だから、一緒に季節を巡っていこう。
 冬も、春も、夏も、秋も
 どの季節の君も、俺にとっては必要なんだから。
 
 
 
 雪菜が側にいなければ、俺は壊れたままだった。
 けれど、雪菜がいただけじゃ、
 やっぱり、俺は壊れたままだったと思う。
 薬に診療。
 周囲の理解、尽力。
 そして、時間の経過。
 あのときの俺にとって、どれも欠かせないものだけども、
 それでも、一番効いたのが、結果的に時間だっただけ。
 
「不倶戴天の君へ」より
 

おわりに

 
どんなに大きな困難があっても、時間と努力をもって解決できることを教えてくれる、WHITE ALBUM2はそんな素敵なシナリオであった。
 
WHITE ALBUM2シナリオライターである丸戸史明氏、そしてLeaf/AQUAPLUSスタッフの皆さんに感謝の思いをこめて、考察を締める。
 
2021年 12月31日 (12536字)